J-POPがかかっていないスキー場を僕はまだ知らない。
いくらラルフローレンのヴィンテージスキーニットを着込んでも
サードウェーブコーヒー片手にジープのラングラーでスキー場へ乗りつけても
僕らはポップミュージックに載せた日本語たちと一緒にゲレンデを滑降する。
特にリフトに乗っている時なんて強制的にJ-POPに傾聴することになる。
一人でスキー場に行く僕なんかは特に。
そして大抵4人乗りリフトとかはまず知らない人たちと乗ることになる。
去年の冬はゲレンデいっぱいにAKB48が鳴り響いてた。
そのとき乗り合わせたのはカップル、僕、同じく独りスキーヤーだった。
カップルは本人たちにとっても、僕らにとっても意味のない会話を絶え間なく展開し、
もう一人の独りスキーヤーはAKB48を独りで口ずさんでいた。
カップルの会話とAKB48ファンであろうスキーヤーが謳う「365日の紙飛行機」とAKB48のアンサンブルに
僕はリフトが山頂に辿り着くことをじっとひたすら待った。
そんな思い出もあるけれど、J-POPを浴びながら滑るスキーもそんなに悪くないと本当は思っている。
初めてスキーをした20年前も同じようにJ-POPが流れていて、
それをBGMに滑る自分は少し大人に一歩踏み入れたような高揚感もあった、気がする。
そんな高揚感を思い出せるのも、まあいいかなという気になる。
もうひとつ幸せだったスキーの記憶は、
滑った後に食べる、豚汁である。
冬の、外で食べるプラスチックの容器に入った豚汁はとても幸せな気持ちになる。
そんなことを思っていたらスキー汁という存在を知った。
新潟の郷土料理らしい。
出汁と味噌は特にこだわる必要はない。
雪を表す白い豆腐、スキーのシュプールを描くようなつきこんにゃく、スキー板をあしらった短冊切りにした大根、人参、かんじきをイメージしたネギ。
あとスキーを日本に持ち込んだレルヒ少佐の団の中に鹿児島出身の人がいたからとかなんとかでさつまいも。
そして冬は寒いから脂肪分が必要だということで豚肉。
もう途中から開き直るほどのこじつけが出てくるが、それも日常感があって良いかもしれない。
日本でスキーができることをレルヒ少佐に1秒くらい感謝してスキー汁を食べる。